Sunday 20 January 2008

19時40分発の急行列車で(ブレーズ・サンドラール)

もう何年も列車に乗ったことがなかった
動きまわるときには自動車
飛行機
船旅がいちど そしてもっと長い船旅をこれからやる

今夜おれはこうして突然 かつてあんなによく親しんだ線路の音の中にいる
そしてどうやらあのころより この音をよく理解してるみたいだ

食堂車
外の景色は何にもわからない
真暗な夜だ
四分の一の月はじっと見つめると動かないが
あるときは列車の左手、あるときは右手にいる

急行列車は時速110キロ
なんにも見えないぞ
この鈍い悲鳴みたいな音で鼓膜がじんじんする――左耳が痛いーーこれは石切り場を通過したせい
ついで鉄橋の巨大な滝音
転轍機は連打されるハープ 駅の平手打ち 怒り狂ったトンネルのあごは二つの括弧
洪水のせいで列車が速度を落とすとウォーターシュートの音が聞こえ 皿洗いとブレーキの音のまんなかにいるのは百トン機関車の加熱したピストン
ル・アーヴル バス エレベーター
おれはホテルの部屋の鎧戸を開ける
身を乗り出すと下はドック そして星空の冷たい豪壮な光
波止場にはくすぐられてくすくす笑う女がいる
終わりなきチェーンが咳をしうめき働いている

こんな鶏小屋の物音を聞きながら おれは窓を開けたまま眠る
田舎にいるみたいだ

(Blaise Cendrars, Dans le rapide de 19 H. 40)