Friday 11 January 2008

朝早く(チェーザレ・パヴェーゼ)

閉ざされた窓が海の野の
上に顔を見せている。髪はゆれる、
海のやさしい律動につれて。

この顔には記憶がない。
ただつかのまの影のみ、雲の影のような。
影はしっとりと甘い、手つかずの洞窟の
砂みたいに、薄明の下で。
記憶がない。あるのはただ思い出となった
海の声のつぶやきだけ。

薄明の中、光をたっぷりふくんだ
夜明けのやわらかい水が、顔を明るくする。
毎日が時のない奇跡だ、
太陽の下で。塩の光がそれにしみこむ
生きた海の果実の味がする。

この顔の表面には記憶が存在しない。
記憶をとどめられる言葉も存在せず
過ぎた事物にむすびつけてくれる言葉もない。昨日、
記憶は小さな窓から姿を消したのだ、ちょうど
さびしさもなく、人の言葉もなく、海の野の上で
いつだって一瞬のうちに姿を消すように。

(Cesare Pavese, Mattino)