Friday 26 February 2010

年とは何か?(マリアン・ムーア)

年とは何か?

何が私たちの無垢で
何が罪なのか? 全員が
裸でさらされ、守られている者などいない。どこから
勇気はやってくる? この答えられない問い、
確固とした疑念ーー
声なく呼びかけ、 聞こえない応答にじっと耳を傾けているーーが
不幸、たとえ死においてすら、
他人たちを励まし
敗北においては、魂をゆさぶって強くしてくれる。深く
見てよろこんでいる者、死すべき
運命に接近し、その囚われの状態においても
裂け目をみたす海のように
自分自身以上に高く立ち上がる、
自由になろうとして戦っているものの、
そうはなれず、それでも戦いに敗れることに
また持続を見出している。

それで、強く感じる者ほど、
行いをつつしむ。歌うにつれて
いっそう立ち上がるその鳥は
姿勢を正し鋼のように強くする。囚われの
身ではあるが、鳥は力強い歌声で
こういうのだ、満足など卑しい、
一方、よろこびとは何と純粋なものか。
これが死への歩み
これが永遠。

(Marianne Moore, What are Years?)

Sunday 25 January 2009

酔いたまえ(ボードレール)*

 つねに酔っていなくてはならない。すべてはそれにかかっている。それだけが問題だ。きみの肩を砕き、きみを地面にむかって打ちのめす<時>の恐るべき重荷を感じずにすませるためには、休みなく酔っていなくてはならない。
 でも、何に? 酒でも、詩でも美徳でも、それはお好み次第。ともかく、酔いたまえ。

(Charles Baudelaire, Enivrez-vous)


(これからしばらく、いくつかの訳詩を再掲することがあります。タイトルに*がついているものがそれ。過去ログのアーカイヴから消してしまったので、整理のためです。)

Wednesday 21 January 2009

「正義の人を作ったことがありますか?」(スティーヴン・クレイン)

「あなた、正義の人を作ったことがありますか?」
「おお、三人作ったよ」と神が答えた、
「だが二人は死んでしまってね
三人めは---
耳をすませ! 耳をすませ!
そうすれば彼の敗北の第三番も聞こえる」

(Stephen Crane, "Have you ever made a just man?")

少しばかりのインクじゃないか! (スティーヴン・クレイン)

少しばかりのインクじゃないか!
こんなもの問題にもならないだろう?
空も、ゆたかな海も、
冷淡な平野や丘も、
こうしたすべての本の咆哮を聞いている。
だがそんなものは少しばかりのインクだ。

何だって? 
おれがこうしたガラクタを身につけた神だというのか?
おれの悲惨は短白衣を着た阿呆どもの
秩序ある歩行を餌食にできるというのか?
それでは光のファンファーレは?
あるいはよく知った真偽の
計りすました説教壇には?
これが神か?
だったら、地獄はどこだ?
血の汚染から生えてきた素性の知れない
キノコでも見せてくれ。
そのほうがましだ。

神はどこにいる?

(Stephen Crane, A little ink more or less!)

Friday 16 January 2009

秋の別れ(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

ツグミの呼び声はすでに聴いていた
川の老いた水とともに、
あるいは南のゆるやかな

オリーヴの木々のガラスの輝きとともに。
そのとき、死ぬはずがないと思った
海によって

運ばれた母音
明るい母音をあんなにも愛した人が
ーーあるいは秋、

それが栗の木の燃えさかる
炎の中で死ぬとは
羊の群れの夢のようなたゆたいや

疲れた心の女たちのまなざしのうちで、
それは折れた枝に似ていた
ーー露の姉妹である枝たちに。

(Eugénio de Andrade, Despedida do outono)

Sunday 11 January 2009

少女にとって(スティーヴン・クレイン)

少女にとって
海は青い牧場
小さな泡の人々がにぎやかに
歌っていた。

難破した水夫には
海は死んだ灰色の壁
この上なくからっぽで
それでもその上には、宿命の時が来たとき
書かれたのだ
自然の暗い憎悪が。

(Stephen Crane, "To the maiden")

Tuesday 6 January 2009

微笑、ふたたび(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

きみは去って行った、この詩のすぐまえの
たった四行のうちに。
あるいは去ったのはきみの微笑、なぜならきみは
いつもきみの微笑の中に住んでいたから、
木々の葉に降る緑の雨だ、きみの微笑は、
手首の脈の羽ばたきだ、きみの微笑は、
そしてその味、唇の上の
その光の熱さだ、唇が街路における
太陽のつぶやきであるときの、きみの微笑は。

(Eugénio de Andrade, O sorriso, outra vez)