Saturday, 26 January 2008

月光(ブレーズ・サンドラール)

ゆれるゆれる船上は
月が月が海面に輪を作る
空ではマストが輪を描いて
すべての星を指さしてくれる
アルゼンチン娘がひとり手すりに肘をつき
フランスの海岸を描き出す灯台たちを見つめながらパリを夢見る
わずかにしか知らないけど 彼女が別れてきてさびしくてたまらないパリ
灯は回転し固定され二重で色がつき点滅し彼女に思い出させるのだ ホテルの窓から見た大通りのあれこれを すぐに帰れますよと彼女に約束しつつ
彼女はすぐにフランスに戻ってきて パリに住むことを夢見ている
おれのタイプライターの音が 彼女が夢を最後まで見ることをじゃまする
おれのすてきなタイプライターは行が終わるごとにチンと鳴ってしかもジャズとおなじくらい速いんだ
おれのすてきなタイプライターは左舷や右舷を おれが夢見ることをじゃまする
でもひとつの考えを おれに最後までつきつめさせる
おれの考えを

(Blaise Cendrars, Clair de lune)