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Friday, 4 July 2008

白い香り(ロルカ)

ああ、ヒアシンスの香りは
なんて冷たいんだろう!
白い糸杉のあいだから
ひとりの乙女がやってくる。
黄金の皿に
切り取った彼女の二つの乳房を載せて。

(二つの道。
彼女の長い長い裾と
銀河。)

死んだ子供たちの
母なのだ
光の虫のごとく
浮かされ震えているのだ。

ああ、なんて冷たいんだろう
ヒアシンスの香りは!

(Federico García Lorca, Olor blanco)

Thursday, 3 July 2008

散歩をするアデリーナ(ロルカ)

 海にはオレンジはない、
そしてセビーリャには愛がない。
浅黒い娘よ、なんという明るい炎だ。
きみの日傘を貸してよ。

 それが私の顔を緑色にする
ーーライムとレモンの果汁ーー。
きみのことばーー小魚たちーーが
あたりを泳いでいるよ。

 海にはオレンジはない。
ああ、恋人よ。
セビーリャには愛がない!

(Federico García Lorca, Adelina de paseo)

ヴィーナス(ロルカ)

  こんな風にきみが見えた。

 ベッドという貝殻で
死んでいる若い女、
花も微風も脱がされて
終わりなき光の中に現れる。

 取り残されたのは世界、
綿と影の百合、
ガラス窓から姿を見せた
無限の通過を見つめながら。

 死んだ若い女は、
愛を内側から渡ってゆく。
シーツの泡のあいまに
彼女の髪が見えなくなる。

(Federico García Lorca, Venus)

サンティアゴ市のためのマドリガル(ロルカ)

サンティアゴに雨が降るよ
恋人よ。
空気の白いカメリア
ぼんやりと輝く太陽。

サンティアゴに雨が降る
暗い夜に。
黒い草と夢が
からっぽな月を覆う。

道路の雨をごらん、
石とガラスの悲嘆だ。
哀切な風の中に
きみの海の影と灰を見たまえ。

きみの海の影と灰だ、
サンティアゴは、太陽から遠く。
遠い昔の朝の水が
私の心で震えている。

(Federico García Lorca, Madrigal â cibdá de Santiago)

Monday, 30 June 2008

巻貝の殻(ロルカ)

  ナタリータ・ヒメネスに

 貝殻をひとつもらった。

 中で歌っているのは
地図の海。
私の心臓は
影と銀でできた
小さな魚たちで
いっぱいになる。

 貝殻をひとつもらって。

(Federico García Lorca, Caracola)

セビーリャの小唄(ロルカ)

  ソリータ・サリーナスに

 夜が明けた
オレンジ畑で。
黄金のミツバチが
蜜を探していた。

 いったい蜜は
どこにあるんだろう?

 青い花の中だよ、
イサベル。
花の中さ、
あのローズマリーの。

 (黄金の小さな椅子は
モーロ人のために。
真鍮の椅子は
妻のために。)

 夜が明けた
オレンジ畑で。

(Federico García Lorca, Cancioncilla sevillana)

Sunday, 29 June 2008

序曲(ロルカ)

 並木道が去ってゆく、
でもその反映を残してゆく。

 並木道が去ってゆく、
でも風を残してゆく。

 風は屍衣をまとっている
空の下、いっぱいに。

 でも川の上に残していった
そのこだまが漂っている。

 蛍たちの世界が
私の思い出に侵入した。

 そしてちっぽけな心臓がひとつ
私の指から発芽する。

(Federico García Lorca, Preludio)


 

最初の欲望の小唄(ロルカ)

 緑の朝、
私は心臓になりたかった。
心臓に。

 熟した午後、
私はナイチンゲールになりたかった。
ナイチンゲールに。

 (魂よ、
オレンジ色になりなさい。
魂よ、
愛の色に。)

 潑溂とした朝、
私は私になりたかった。
心臓。

 失墜の午後、
私は自分の声になりたかった。
ナイチンゲール。

 魂!
オレンジ色になりなさい。
魂よ、
愛の色に!

(Federico García Lorca, Cancioncilla del primer deseo)


 

Wednesday, 25 June 2008

薔薇の花環のソネット(ロルカ)

 その花環を! 早く! 私は死んでしまうよ!
早く編んで! 歌って! うめいて! 歌って!
影が私ののどを濁らせる
そしてまた何度も千度でも一月の光がやってくる。

 きみの私に対する愛と私のきみに対する愛のあいだに、
星々の大気と植物の震え、
アネモネの茂みが一年をまるごと
持ち上げる、暗いうめき声を立てながら。

 私の傷の新鮮な風景を楽しんで、
イグサと繊細な水路を開いて、
蜜の腿にこぼれた血を飲んで。

 でも、早く! むすばれ、絡み合い、
愛に割れた口とかみ傷を負った魂をもち
くたくたになった私たちが「時」に見つかるように。

(Federico García Lorca, Soneto de la guirnalda de rosas)
 

Monday, 23 June 2008

白いサテュロス(ロルカ)

不滅の水仙の上で
白いサテュロスが眠っていた。

巨大な水晶の角二本で
彼の幅広い額は乙女のように見えた。
打ち負かされた龍のような太陽が
彼の巨大な乙女の手を舐めていた。

愛の川に浮かんで
死んだ妖精たちがたくさん流れていった。
サテュロスの心臓は風の中で
老いた嵐にさらされていた。

地面に置かれたパンの笛は泉
それは七つの青ガラスの管でできている。

(Federico García LOrca, El sátiro blanco)

大通り(ロルカ)

白い理論たちが
眼帯をつけたまま
森で踊っていた。

白鳥のようにゆっくり
夾竹桃のように苦く。

かれらは通った
人の目には見えぬまま、
ちょうど夜
川たちが人知れず通過するように、
沈黙の中を
新しい独自の噂が通るように。

理論のひとりは彼女の古代風の白衣に
灰色のまなざしを隠している
だがそれは瀕死のまなざし。
     他の誰かは
長い枝をゆらす
混乱した言葉の枝を。
彼女らは生きていないが生き生きとしている。
エクスタシーの森を抜けてゆくのだ。
夢遊病者たちの群れ!
(白鳥のようにゆっくり
夾竹桃のように苦く。)

乙女たちが残してゆくのは
まなざしを欠いた心の香り。
空気はそれに無関心のままだ
百の花弁をもつ白いカメリアのように。

(Federico García Lorca, Avenida)

Sunday, 22 June 2008

庭(ロルカ)

それは生まれたことなんかなかった、けっして!
けれども湧き出すことができた。

一秒ごとに
深まり、新しくなった。

一秒ごとに
新しい小径が開かれて。

こっちだ! あっちだ!
私の体は分裂して進む。

村々を横切るのか
海でねむるのか。

すべては開かれているよ! 錠前には
すべて鍵がある。
けれども太陽と月は
私たちを失い、まどわす。
そして私たちの足下では
道がこんがらがる。

ここで私は見つめる
私がそうでありえたすべてを。
神とか乞食とか
水とか古いヒナギクとか。

私のたくさんの
軽く染められた小径は
私の身体のまわりで
巨大な薔薇を作る。

不可能な地図のように、
可能なるものの庭がある。
一秒ごとに
深まり、新しくなるのだ。

それは生まれたことなんかなかった、けっして!
けれども湧き出すことができた。

(Federico García Lorca, El jardín)

Saturday, 21 June 2008

(コン、コン)(ロルカ)

コン、コン。
誰?
秋です、また来ましたよ。
私から何を?
きみのこめかみの冷たさ。
おまえにはやらないよ。
だったら取り上げますよ。
コン、コン。
誰?
秋です、また来ましたよ。

(Federico García Lorca, *)

オメガ(死者たちのための詩)(ロルカ)

草。

私は右手を切り落としてしまおう。
待ってて下さい。

草。

私の手袋の一つは水銀、もう一つは絹。
待っててください。

草!

彫像たちはすべて倒れた
大いなる扉が開くとき。

草ぁぁぁ!

(Federico García Lorca, Omega: Poema para muertos)

Thursday, 19 June 2008

ルシア・マルティネス(ロルカ)

 ルシア・マルティネス。
赤い絹をまとい影みたいに。

 きみの太腿は夕方とおなじく
光から陰にむかう。
隠された黒炭が
きみのマグノリアを暗くする。

 私は来たよ、ルシア・マルティネス。
来たのはきみの唇をむさぼるため
そして貝殻の夜明けに
きみの髪をつかんで引きずりまわすため。

 なぜならきみを欲望し、またそうすることができるから。
赤い絹をまとった影みたいなきみを。

(Federico García Lorca, Lucía Martínez)

食堂でのどっきり(ロルカ)

 きみは薔薇色だった。
レモン色を帯びるようになった。

 きみを脅かすようにさえ見える私の手に
きみはどんな意図を見たのでしょう?

 私は緑のりんごが欲しかった。
薔薇色になったりんごではなく......。

レモン色を帯びたのでもなく......。

(午後に眠る鶴が、
片方の足を地面に下ろした。)

(Federico García Lorca, Susto en el comedor)

別れのことば(ロルカ)

 私が死ぬとき、
バルコニーは開けたままにして。

 少年がオレンジを食べている。
(私のバルコニーから彼が見える。)

 刈り手が小麦を刈っている。
(私のバルコニーからそれが感じられる。)

 私が死ぬとき、
バルコニーは開けたままにして!

(Federico García Lorca, Despedida)

婚約(ロルカ)

 その指輪は
水に捨てなさい。

 (影がその指を
私の肩に押しつけている。)

 その指輪は捨てなさい。私は
百歳を超えている。しずかに!
 何も聞かないで!

 その指輪を
水に捨てなさい。

(Federico García Lorca, Desposorio)

Tuesday, 10 June 2008

不快と夜(ロルカ)

 蜂食い鳥。
きみの暗い木の中に。
どもる空と
口ごもる空気の夜。

 三人の酔っ払いが
酒と喪の仕草を永遠化する。
鉛の星が
片足で回っている。
        蜂食い鳥。
きみの暗い木の中に。

 分の花環によって
抑圧されたこめかみの痛み。
それで、きみの沈黙は? 三人の
酔っ払いが裸で歌っている。
生(き)の絹の返し縫い
きみの歌。
    蜂食い鳥。
ウコ、ウコ、ウコ、ウコ。
           蜂食い鳥。

(Federico García Lorca, Malestar y noche)

Monday, 9 June 2008

展望(ロルカ)

私の目の中で
難解きわまりない歌が開く
けっして開花することのない
種子の歌。

誰もが非現実の
しかし明瞭な終わりを夢見ている。
(小麦は巨大な
黄色い花を夢見ている。)

誰もが影の
奇妙な冒険を夢見ている。
近づきえない果実と
飼いならされた風。

誰もお互いを知らない。
盲目で、脱線して。
永遠に閉じこめられたままの
香りが人々を苦しめる。

種のひとつひとつが
系統樹を考えている
その新芽や房により
空のすべてをおおう樹木を。

空中には信じがたい植生が
どこまでも広がっている。
黒く大きな枝と
灰の色をした薔薇。

花々や枝により
ほとんど溺れかけた月が
銀の蛸のように
その光線で身を守っている。

私の目の中で
難解きわまりない歌が開く
けっして開花することのない
種子の歌。

(Federico García Lorca, Perspectiva)