Wednesday 4 June 2008

自殺(ロルカ)

 (たぶんそれはきみが
 幾何学をちゃんと知らなかったから)

 若者は自分を忘れた。
朝の十時だった。

 彼の心臓はあふれていった
折れた翼とぼろ切れの花で。

 もはや口にはほんの一語しか、
残っていないことに気づいた。

 そして手袋をはずすと、
彼の両手からはなめらかな灰が落ちた。

 バルコニーからは塔がひとつ見えた。
彼は自分がバルコニーであり塔だと感じた。

 まちがいなく彼は見たはずだ、木箱の中に
閉じこめられた時計がどんなふうに彼を見つめているかを。

 はりつめしずかな彼の影を、
白い絹張りの長椅子に見たはず。

 それから緊張した、幾何学的な若者は、
斧で鏡を叩き割った。

 それを割るとき、影は盛大に噴き出し、
幻想の寝室を水びたしにした。

(Federico García Lorca, Suicidio)