Sunday 25 January 2009

酔いたまえ(ボードレール)*

 つねに酔っていなくてはならない。すべてはそれにかかっている。それだけが問題だ。きみの肩を砕き、きみを地面にむかって打ちのめす<時>の恐るべき重荷を感じずにすませるためには、休みなく酔っていなくてはならない。
 でも、何に? 酒でも、詩でも美徳でも、それはお好み次第。ともかく、酔いたまえ。

(Charles Baudelaire, Enivrez-vous)


(これからしばらく、いくつかの訳詩を再掲することがあります。タイトルに*がついているものがそれ。過去ログのアーカイヴから消してしまったので、整理のためです。)

Wednesday 21 January 2009

「正義の人を作ったことがありますか?」(スティーヴン・クレイン)

「あなた、正義の人を作ったことがありますか?」
「おお、三人作ったよ」と神が答えた、
「だが二人は死んでしまってね
三人めは---
耳をすませ! 耳をすませ!
そうすれば彼の敗北の第三番も聞こえる」

(Stephen Crane, "Have you ever made a just man?")

少しばかりのインクじゃないか! (スティーヴン・クレイン)

少しばかりのインクじゃないか!
こんなもの問題にもならないだろう?
空も、ゆたかな海も、
冷淡な平野や丘も、
こうしたすべての本の咆哮を聞いている。
だがそんなものは少しばかりのインクだ。

何だって? 
おれがこうしたガラクタを身につけた神だというのか?
おれの悲惨は短白衣を着た阿呆どもの
秩序ある歩行を餌食にできるというのか?
それでは光のファンファーレは?
あるいはよく知った真偽の
計りすました説教壇には?
これが神か?
だったら、地獄はどこだ?
血の汚染から生えてきた素性の知れない
キノコでも見せてくれ。
そのほうがましだ。

神はどこにいる?

(Stephen Crane, A little ink more or less!)

Friday 16 January 2009

秋の別れ(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

ツグミの呼び声はすでに聴いていた
川の老いた水とともに、
あるいは南のゆるやかな

オリーヴの木々のガラスの輝きとともに。
そのとき、死ぬはずがないと思った
海によって

運ばれた母音
明るい母音をあんなにも愛した人が
ーーあるいは秋、

それが栗の木の燃えさかる
炎の中で死ぬとは
羊の群れの夢のようなたゆたいや

疲れた心の女たちのまなざしのうちで、
それは折れた枝に似ていた
ーー露の姉妹である枝たちに。

(Eugénio de Andrade, Despedida do outono)

Sunday 11 January 2009

少女にとって(スティーヴン・クレイン)

少女にとって
海は青い牧場
小さな泡の人々がにぎやかに
歌っていた。

難破した水夫には
海は死んだ灰色の壁
この上なくからっぽで
それでもその上には、宿命の時が来たとき
書かれたのだ
自然の暗い憎悪が。

(Stephen Crane, "To the maiden")

Tuesday 6 January 2009

微笑、ふたたび(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

きみは去って行った、この詩のすぐまえの
たった四行のうちに。
あるいは去ったのはきみの微笑、なぜならきみは
いつもきみの微笑の中に住んでいたから、
木々の葉に降る緑の雨だ、きみの微笑は、
手首の脈の羽ばたきだ、きみの微笑は、
そしてその味、唇の上の
その光の熱さだ、唇が街路における
太陽のつぶやきであるときの、きみの微笑は。

(Eugénio de Andrade, O sorriso, outra vez)

フリージア(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

故国には少しは意味がある
それについて話す時にそれが
私たちに口づけしてくれる口であるなら、
その子音のうちに運んでくれるのは
麦、蝉、
魂と、肉体と、空気の
振動、
あるいはまた家の中を突き抜ける光
フリージアとともに
そしてね、ともだちよ、それが心を軽くしてくれるんだ。

(Eugénio de Andrade, Frésias)

Sunday 4 January 2009

たそがれに(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

肉体を離れて光が
這ってゆく、
雨と見分けがつかなくなって。
冷えてきた、カモメたちは
岩場で体を寄せ合う。
猫は丸くなって夢を見る。
私は一冊の本を取り上げる、すると突然
ひとりの子供が詩行から落ちる。
死んだ子供だ。

(Eugénio de Andrade, Ao crepúsculo)

Friday 2 January 2009

ファンゥのノクターン(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

言葉づたいに
夜が上がってゆく
もっとも高い枝まで。

そして歌う
一日のエクスタシーを。

(Eugénio de Andrade, Nocturno de Fão)

家の変容(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

空気の石を積み上げて建ててゆくのだ
ただ詩の中にしかない私の家は。

家は眠り、風の中で夢見る
突然訪れたマストになる喜び。

繊細な体が震えるそのように、
家も震える、船も震える。

カモメが一羽飛ぶ、もう一羽、もう一羽、
家はがまんできなくなって、やはり飛び立つ。

ああ、いつか家は森になるだろう、
その木陰に私は泉を見つけるだろう、
そこでは水音だけが唯一のしずけさ。

(Eugénio de Andrade, Metamorfoses da casa)

果物の静物画(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)


キイチゴの朝の血が
愛するためにリネンの白を選ぶ。


輝きと甘さにみちた朝は
その純粋な顔をリンゴへと伏せる。


オレンジにおいて太陽と月が
手をつないで眠る。


葡萄のひとつぶひとつぶは覚えている
夏の日々それぞれの名前を。


ザクロの中に私は愛する
炎の芯のやすらぎを。

(Eugénio de Andrade, Natureza-morta com frutos)