Sunday 30 November 2008

かつて、私は美しい歌を知っていた(スティーヴン・クレイン)

かつて、私は美しい歌を知っていた、
----本当です、信じてください、----
すべて鳥たちの歌で、
私は鳥たちをかごに入れていた。
私が扉をあけると、
なんということ! みんな飛び去ってしまった。
私は叫んだ。「帰っておいで、考えのない者たち!」
でも鳥たちは笑っただけ。
どんどん飛んでゆき
やがて砂粒のようになってしまった
私と空のあいだで。

(Stephen Crane, "Once, I knew a fine song")

Saturday 29 November 2008

友よ、きみの白い髭は地面に届いている(スティーヴン・クレイン)

友よ、きみの白い髭は地面に届いている。
なぜ立ちつくすのだ、期待にあふれて?
きみはその髭を
萎れたきみの日々に見たいのか?
きみの老いた目で
見ようと願うのか
正義の勝ち誇った行進を?
待つのはやめたまえ、友よ!
きみの白い髭と
老いた目を
もっとやさしい土地に運びたまえ。

(Stephen Crane, "Friend, your white beard sweeps the ground")

Friday 28 November 2008

壮大な伽藍があった(スティーヴン・クレイン)

壮大な伽藍があった。
荘厳な歌に合わせて、
白い行列が
祭壇めざして進んで行った。
そこに司祭が
すっくと立ち、ほこらかに立ちつくしていた。
だが彼が、まるで危険な場所
にいるかのように竦んでいるのに気づいている者もいた、
おびえた視線を空中に投げかけ、
過去の恐ろしい顔たちに驚愕しながら。

(Stephen Crane, "There was a great cathedral")

Thursday 27 November 2008

火の人生を送った男がいた(スティーヴン・クレイン)

火の人生を送った男がいた。
紫がオレンジになり
オレンジが紫になる
時の織物の上でも、
この人生だけは燃えさかり、
真っ赤なしみとなり、拭うことができなかった。
それなのに彼がいざ死ぬときには、
彼は自分が生きなかったことを悟ったのだ。

(Stephen Crane, "There was a man who lived a life of fire")

男と女がいて(スティーヴン・クレイン)

I
男と女がいて
罪を犯した。
それから男は罰をすっかり
女の頭上に浴びせ、
陽気に立ち去った。

II
男と女がいて
罪を犯した。
男は彼女のかたわらに立った。
彼女の頭にも、彼の頭にも、
打撃が加えられ、
人々はみんな叫んだ。「馬鹿者!」
彼は勇敢だった。

III
彼は勇敢だった。
きみは彼と言葉を交わしてくれますか、友人よ?
ところが、彼は死に、
きみにその機会はもうないのだ。
悲しんでください、
彼は死に
きみの機会が失われたことを。
というのも、その点において、きみは卑怯者だったのだから。

(Stephen Crane, "There was a man and a woman")

私の人生の途上で(スティーヴン・クレイン)

私の人生の途上で、
多くの美しい人たちと出会った、
みんな白い服を着て、まばゆく輝いていた。
そのひとりに、ついに、私は声をかけた。
「あなたは誰?」
でも彼女も、他の人々とおなじく、
顔を頭巾に隠したまま、
心配そうに、急いで答えた。
「私は<善行>です、
私のことは何度も見ているでしょう」
「顔を隠さないところは見ていませんよ」と私は答えた。
そして向こう見ずで強い手で、
彼女が抵抗したにもかかわらず、
私はそのヴェールをはずし
<うぬぼれ>の顔だちをじっと見つめた。
彼女は、恥じ入った顔で、歩み去った。
そしてしばし考え込んだのち、
私は自分にこういったのだ。
           「馬鹿者!」

(Stephen Crane, "Upon the road of my life")

Wednesday 26 November 2008

山羊たち(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

通りすぎてゆく、みすぼらしく、やせこけて、
山羊たちが、
砂丘の鋭いへりを。
角はかれらの王冠。
かれらの目の中では、稲妻が
星々の凍てついた
震えのあとに続く。
かれらはゆっくりと進む----
ヤグルマギクや石灰の姉妹たち。

(Eugénio de Andrade, As cabras)

四月に歌う(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

四月に子供たちは歌う
雨と一緒に。
桜の木の
朝の枝に上り
太陽を待って歌うのだ。
太陽がぐずぐずしていると
かれらは神の目によって歌いはじめる。
夜にはまたたく。

(Eugénio de Andrade, Em abril cantam)

詩という技芸(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

すべての知はここにある、
広東の周辺の、
あるいはアルペドリーニャの畑のこの女が、
コウヴェの畝の四、五本に
いかに水をやるかに。しっかりと
水を扱う両手、
大地との親密、
心の真剣さ。
詩もこんな風にして作られる。

(Eugénio de Andrade, A arte dos versos)

空を歩きながら(スティーヴン・クレイン)

空を歩きながら、
奇妙な黒い服装の男が
あるまばゆいかたちに遭遇した。
すると彼の足取りは早くなった。
彼はうやうやしくお辞儀をした。
「わが主よ」と彼はいった。
しかし精霊は彼のことなど知らなかった。

(Stephen Crane, "The sage lectured brilliantly")

賢者が見事な講義をおこなった(スティーヴン・クレイン)

賢者が見事な講義をおこなった。
彼の前には、二枚の絵。
「さて、こっちは悪魔、
そしてこっちは私」
彼は目をそらした。
すると狡猾なある生徒が
絵を入れ替えた。
「さて、こっちは悪魔、
そしてこっちは私」
生徒たちはおとなしくすわっていた、みんなで
ニヤニヤ笑い、この遊びを楽しんで。
それでも賢者は賢者だったのだ。

(Stephen Crane, "The sage lectured brilliantly")

目と身振りで(スティーヴン・クレイン)

目と身振りで
あなたは自分が神聖だという。
あなたは嘘をついていると私はいう。
なぜなら私は見たからだ
ある幼い子の
両手に載った罪から
あなたがあなたの上着をさっと除けるのを。
嘘つき!

(Stephen Crane, "With eye and with gesture")

ある男が殺人者に出会うのを怖れていた(スティーヴン・クレイン)

ある男が殺人者に出会うのを怖れていた。
別の男は犠牲者に出会うのを怖れていた。
一方は他方よりも賢明だった。

(Stephen Crane, "A man feared that he might find an assassin")

ひとりの男が燃える道であくせく働いていた(スティーヴン・クレイン)

ひとりの男が燃える道であくせく働いていた、
けっして休まず。
あるとき彼は見た、肥えた、ばかなロバが
緑の場所から彼にむかってニヤニヤ笑っているのを。
男は怒ってどなった。
「ああ、おれを嘲るなよ、馬鹿め!
おまえのことは知っている----
一日中腹に餌をつめこみ、
心を草や
やわらかい芽のあいまに埋めている。
だがそれだけでは足りないぞ」
だがロバはただ緑の場所から彼にむかってニヤニヤ笑っただけ。

(Stephen Crane, "A man toiled on a burning road")

「こんなことをするのはまちがっていたよ」と天使がいった(スティーヴン・クレイン)

「こんなことをするのはまちがっていたよ」と天使がいった。
「きみは花のように生きるべきだ、
悪意は子犬のように抱きかかえ、
戦いを挑むときには子羊のように」

「そんなことはないさ」と精霊など怖れない
男がいった。
「それがまちがっていたのは花のように
生き、悪意を子犬のように抱きかかえ
戦いを挑むときには子羊のようにする
ことができる天使にとってのみのこと」

(Stephen Crane, "'It was wrong to do this,' said the angel")

いばりちらす神よ(スティーヴン・クレイン)

I

いばりちらす神よ、
これみよがしにふんぞりかえって
空をのしのしと横切ってゆく神よ、
おれはあんたを怖れない。
いいや、もっとも高き天から
あんたは槍をおれの心臓に突き立ててくるが、
おれはあんたを怖れない。
いいや、たとえその打撃が
木をこっぱみじんにする稲妻のようであっても、
おれはあんたを怖れないよ、頬をふくらましたほら吹きよ。

II
もしあんたがおれの心を見抜き
おれがあんたを怖れていないとわかるなら、
なぜあんたを怖れていないかもわかるだろう、
そしてなぜそれが正しいかも。
だから威嚇しようなどと思うなよ、あんたの血なまぐさい槍で、
そんなことをすればあんたの崇高な耳が罵りを聞くことになるよ。

III
それでも、おれには恐ろしい相手がいる。
その顔に悲嘆が浮かぶのを見るのが怖いのだ。
おそらくは、友人よ、彼はあんたの神ではない。
もしそうなら、唾をかけてやれ。
そうしたって冒瀆にはあたらない。
だがおれは----
ああ、それくらいなら死んだほうがましさ
おれの魂の両目に涙を見るくらいなら。

(Stephen Crane, "Blustering god")

なぜ偉大さを求めてあくせくするのだ、馬鹿者よ?(スティーヴン・クレイン)

なぜ偉大さを求めてあくせくするのだ、馬鹿者よ?
行って枝を折り身にまとうがいい。
それだって、おなじくらい十分だ。

主よ、野蛮人どもの中には
星々が花だとでもいうように
鼻をしかめてみせるものがいるものですから、
あなたの召使いはかれらの靴のバックルに隠れて迷っています。
私はよろこんで自分の目をかれらの目と同等に置くつもりです。

馬鹿者よ、行って枝を折り身にまとうがいい。

(Stephen Crane, "Why do you strive for greatness, fool?")

Wednesday 19 November 2008

ひとりの男が奇妙な神の前に出た(スティーヴン・クレイン)

ひとりの男が奇妙な神の前に出た、----
多くの人間の神、さびしくも賢明な。
すると神さまは大音声で叫んだ、
怒りに顔をふくらませ、息を切らしながら。
「ひざまずけ、死すべき者どもよ、そして萎縮し
はいつくばり讃えるがいい
私という格別に崇高な存在を」

          男は逃げた。

それから男は別の神のところに行った、----
彼自身の内面の思考の神だ。
この神は彼のことを
無限の理解に輝く
柔和なまなざしで見た、
そしていった。「かわいそうなわが子よ!」

(Stephen Crane, "A man went before a strange god")

きみは自分が聖者だという(スティーヴン・クレイン)

きみは自分が聖者だという、
それは
きみが罪を犯すのをぼくが見ていないからだ。
ああ、だがね、ちゃんとどこかにいるんだぜ、
きみが罪を犯すのを見た人は。

(Stephen Crane, "You say you are holy")

私は暗黒の世界で立ちつくし考えていた(スティーヴン・クレイン)

私は暗黒の世界で立ちつくし考えていた、
両足をどちらに向ければいいのかわからなくて。
すると人々の早足の流れが見えた、
休むことなく次々に現われるのだ、
熱心な表情で、
欲望の奔流として。
私はかれらに呼びかけた。
「どこに行くんですか? 何が見えるのですか?」
千の声が私にむかって叫んだ。
千の指がゆびさした。
「見ろ! 見ろ! あそこだ!」

私は知らなかった。
だが、見よ! 遠い空に輝いているのは
えも言われぬ、神々しい光、----
棺に描かれたヴィジョン。
あるとき、それはあり、
あるとき、それはなかった。
私はためらった。
すると人の奔流から
轟くような声がした、
いらだったように。
「見ろ! 見ろ! あそこだ!」

それでふたたび私は見た、
そして跳んだ、きっぱりと、
そして指をいっぱいにひろげ、摑もうと
必死になってがんばった。
硬い山々が私の肉を裂いた。
道が両足に噛みついた。
ついに私はまた目にした。
遠い空にはもう
えも言われぬ、神々しい光はなく
棺に描かれたヴィジョンもなかった。
そして私の両目はあいかわらず、痛いほど光を求めている。
それで私は絶望して叫んだ。
「何も見えない! ああ、私はどこに行くのか?」
奔流はふたたびいっせいにふりむいた。
「見ろ! 見ろ! あそこだ!」

そして私の精神の盲目ぶりに
かれらはこんな風に怒鳴ったのだ。
「馬鹿者! 馬鹿者! 馬鹿者!」

(Stephen Crane, "I stood musing in a black world")

Tuesday 18 November 2008

体について(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

きみの体におれは落ちた
ちょうど夏が日々の
乱れた水の上に
髪をひろげるように
そしてシャクヤクを黄金の雨か
ひどく近親相姦的な愛撫とするように。

(Eugénio de Andrade, Sobre o corpo)

道について(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

何もない。

小麦の白い炎も
小鳥たちの瞳につきたてられた針も
きみには何も語らない。

問うのはよせ、たずねるのはよせ
理性と雪の擾乱のあいだに
ちがいはない。

糞など集めるなよ、きみの運命はきみ自身だ。

きみ自身を解き放て
他の道などないのだから。

(Engénio de Andrade, Sobre o caminho)

Sunday 16 November 2008

世界の薔薇(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

薔薇。世界の薔薇。
燃えて。
あまりに多くの言葉に汚れ。

顔の最初の露のひとしずく。
花びらひとひらごとが
むせび泣きのハンカチ。

猥褻な薔薇。分割され。
愛され。
傷ついた口、誰のものでもない息。

ほとんどなんでもない。

(Eugénio de Andrade, Rosa do mundo)

記憶なし(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

記憶にない日々には
死という以外の名前があるだろうか?
きれいな、軽いものごとの死。
丘にまとわりつく朝、
唇まで持ち上げられた体の光、
庭の最初のライラックの花々。
この場所に他の名前などありうるものだろうか
きみの思い出がまるでない場所に?

(Eugénio de Andrade, Sem Memória)

南(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

夏だった、壁があった。
広場では、目立っていたのは
鳩たち、そして石灰の
暑さだけ。突然
沈黙がたてがみを振りかざし、
海へと駆け出した。
私は考えた。われわれはこんな風に死んでゆくべきだ。
こんな風に。空中で白熱しながら。

(Eugénio de Andrade, Sul)

Friday 14 November 2008

ごらん、おれにはもう自分の指さえわからない(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

ごらん、おれにはもう自分の指さえわからない、
欲望にじりじりしながら、きみのシャツにふれ、
ボタンをひとつはずし、小麦の色をしたきみの乳房を見抜く、
野鳩の色だといったこともあった、
夏はほとんど終わり、
松林を風がわたり、脇腹には
雨の予感、
夜、もうまもなく夜だ、
おれは愛を愛していた、あの業病を。

(Eugénio de Andrade, Olha, já nem sei de meus dedos)

雨が降っている、砂漠だ、そして火は消えた(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

雨が降っている、砂漠だ、そして火は消えた、
この両手をどうしようか、太陽の共犯者を?

(Eugénio de Andrade, Chove, é o deserto, o lume apagado)

Monday 3 November 2008

むかしひとりの男がいた(スティーヴン・クレイン)

むかしひとりの男がいた、----
ああ、すごく賢い人!
あらゆる飲み物に
彼は苦みを感じとり、
ふれるものすべてに
彼は刺すような痛みを覚えた。
ついに彼はこう叫んだ。
「何もない、----
生命も、
よろこびも、
痛みも、----
あるのはただ意見だけ、
そして意見など糞食らえ」

(Stephen Crane, "Once there was a man")

Sunday 2 November 2008

「おれが考えるように考えろ」とある男がいった(スティーヴン・クレイン)

「おれが考えるように考えろ」とある男がいった、
「でなければおまえはじつに不快な厭なやつだ。
ひきがえるさ」

そういわれて考えてみてから、
こう答えた。「それなら、ぼくは、ひきがえるになりますよ」

(Stephen Crane, "'Think as I think,' said a man")

Saturday 1 November 2008

数多くの赤い悪魔が私の心臓から走り出て(スティーヴン・クレイン)

数多くの赤い悪魔が私の心臓から走り出て
ページに着地した。
かれらはあまりに小さくて
ペンで押しつぶせるくらいだった。
そして多くの者がインクの中でもがいていた。
妙な気分だった
私の心臓から出てきた
こんな赤い連中を使って書くなんて。

(Stephen Crane, "Many red devils ran from my heart")