Tuesday 30 September 2008

この広大な世界がたとえ(スティーヴン・クレイン)

この広大な世界がたとえ、
黒い恐怖と、
無限の夜を残して転がり去ったとしても、
おれにとって不可欠なのは
神でも、人でも、しっかりした足場でもない、
もしきみときみの白い両腕があるならば、
そして長い道のりを約束された堕落があるならば。

(Stephen Crane, "Should the wide world roll away")

Sunday 28 September 2008

私は高いところに立っていた(スティーヴン・クレイン)

私は高いところに立っていた、
そして見た、下の方に、多くの悪魔らが
かけまわり、跳びまわり、
どんちゃん騒ぎで罪にふけっているのを。
一匹が見上げて、にやにや笑いながら
いうのだ。「同志! 兄弟!」

(Stephen Crane, "I stood upon a high place")

Monday 15 September 2008

エロス(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

こんな風に夏が名残ったことはなかった
私たちの唇に
そして水に
----私たちは何と死ぬことができただろう、
あんなにも近く
裸で、無垢で?

(Eugénio de Andrade, Eros)

Friday 12 September 2008

隠喩の動機(ウォレス・スティーヴンズ)

きみは秋の樹木の下が気に入っているね、
なぜならすべてが半ば死んでいるからだ。
風は木の葉のあいまを不自由に動き
意味のない語を反復する。

おなじように、きみは春にも幸福だった、
四分の一できあがった物たちの半ばだけの色彩に、
少しだけより明るい空、溶ける雲、
一羽だけの鳥、暗い月----

暗い月が暗い世界を照らしているのだ
けっして完全には表現されない事物の世界を、
そこではきみ自身けっして十分きみ自身でなく
そんなことは望みもせずそうある必要もなかった、

変化の快活さを望みながら。
隠喩への動機は原初の月の
重みから収縮していた、
存在のABCから、

赤と青の
ハンマー、硬い音----
血色のよい気質にぶつかる鋼----鋭い閃光、
生気にみちて、傲慢で、致命的で、支配的なX。

(Wallace Stevens, The Motive for Metaphor)

Thursday 11 September 2008

秋の場所(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

秋、キイチゴの迷宮、
子音の、つまり緩慢な瞳の、
無数の水と背が高いハンノキの川の、
そこでは蝉の
最後の光が歌う、
ガラスでできた、羽のような、白い光が。

(Eugénio de Andrade, Lugares do outono)

あの雲とともに(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

どんな星をめざして成長しているんだ、
息子よ、どんな夜明けの星めざして?
いってごらん、そっと教えてくれよ、
まだ時間があるのかどうか、
おれとあの雲、あの高い雲が、
おまえと一緒に行くための。

(Eugénio de Andrade, Com essa nuvem)

ひまわり(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

こんなふうに震える、裸の
光は、ひまわりからしか来ない。
こんな気むずかしい花が私の家に
来てくれてとても誇らしいんだ。
これがあるいは最後の夏だから、
おれの欲望も気楽なものさ。
だが、私はひまわりを誇らしく思う。
まるで自分がその兄弟でもあったかのように。

(Eugénio de Andrade, Os girassóis)

Wednesday 10 September 2008

激しく流れる、きみの体は川のようだ(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

激しく流れる、きみの体は川のようだ
そこでおれの体が溺れる。
耳をすませば、聞こえるのはきみの音だけ。
おれの音なんて、ごくわずかな兆しすらない。

おれがたどった身振りのイメージが
純粋かつ完全なものとしてほとばしる。
それでおれはそれを川と名付けた。
そこでは空がひどく近くなる。

(Eugénio de Andrade, Impetuoso, o teu corpo é como um rio)

私は花の名前をもっている(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

私は花の名前をもっている
あなたが私を呼ぶとき。
あなたが私にふれるとき、
私だってわからない
私は水なのか、若い女なのか、
それとも横切ってきた果樹園なのか。

(Eugénio de Andrade, Tenho o nome de uma flor)

待つこと(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

何時間も、終わりなき時を、
重く、深い時を、
おれはきみを待っていよう
すべてが黙りこむまで。

一個の石が突然出現し
花開くまで。
一羽の小鳥がおれののどから出てきて
沈黙の中に姿を消すまで。

(Eugénio de Andrade, Espera)

あった(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

あった
ひとつの単語が
暗がりに。
小さく。目立たず。

暗がりで槌音を立てていた。
槌打っていた
水でできた床を。

時の奥底から
槌打っていた。
壁を打っていた。

ひとつの単語。
暗がりで。
私を呼んでいた。

(Eugénio de Andrade, Havia)

壁は白い(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

壁は白い
そして突然
壁の白さに夜が降りかかる。

沈黙に近い一頭の馬がいる、
口に冷たい石をひとつくわえている、
眠りで盲目になった石ころを。

いまきみが来てくれたなら
あるいはきみの顔を澄みきって途方にくれた
おれの顔の上に傾けてくれたなら
おれはきみを愛するだろう、
ああ、人生。

(Eugénio de Andrade, O muro é branco)

歌わない、なぜなら夢見ているから(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

歌わない、なぜなら夢見ているから。
歌うのはきみが現実にいるからだ。
歌うのはきみの熟したまなざし、
きみの澄んだ微笑み、
きみの動物の優美さ。

歌うのはおれが人間だから。
歌わなければおれはただ
快活にくらくらと酔っぱらった
獣になってしまうだろう
葡萄酒なききみの葡萄畑で。

歌うのは愛がそれを望むから。
輝くきみの両腕の中で
干し草が熟れていくから。
その両腕が裸で汗にまみれているのを見て
おれの体が震えるから。

(Eugénio de Andrade, Não canto porque sonho)

Tuesday 9 September 2008

目覚め(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

一羽の小鳥か、ひとつの薔薇か、
海か、私を起こすのは?
小鳥でも薔薇でも海でも、
すべては熱、すべては愛。
目覚めるとは薔薇の中で薔薇に、
翼の中で歌に、海の中で水になること。

(Eugénio de Andrade, Despertar)

絶望の歌(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

目だって何と言えばいいのかわからない
この快活な薔薇に対して、
私の両手の中や
一日の髪の中で花開くそれに。

私が夢見たのはただ水だけ、
水だけ、冷たさに赤くなった。
どんな薔薇もこの悲嘆には収まらない。
一隻の船の陰をおれにくれ。

(Engénio de Andrade, Cançao desesperada)

歌(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

きみは雪だった。
愛された白い雪。
夜明けの閾にいる
涙とジャスミン。

きみは水だった。
口づけすれば海の水。
高い塔、魂、舟、
始まりも終わりもしない別れの挨拶。

きみは果物だった
私の指の中で震える。
ぼくらには歌うことも
飛ぶこともできた、死ぬこともできた。

けれども五月が
飾り立てたその名の
色彩も
味も残らなかった。

(Eugénio de Andrade, Cançao)