Saturday 31 May 2008

ヴェルレーヌ(ロルカ)

 けっして話さないけれど
その歌が、
ぼくの舌先で眠ってしまったんだ。
歌が、
けっして話すつもりのない歌が。

 スイカズラの上には
一匹の蛍がいて、
月は水を照らしつつ
ちくちくと光った。

 そのときぼくは夢見た、
その歌、
けっして話すつもりのない歌を。

 遠い河床から流れてくる
唇にみちた歌。

 影に失われた
時間でいっぱいの歌。

 生きた星の歌
いつまでも続く昼間の上の。

(Federico García Lorca, Verlaine)

花(ロルカ)

 コリン・ハックフォースに

 雨のすばらしい
柳が、降っていた。

 ああ、白い枝の上の
まんまるな月!

(Federico García Lorca, Flor)

月が上る(ロルカ)

 月が出ると
鐘はすべて消え
通ることのできない小径が
姿を現す。

 月が出ると、
海は土地を覆い
心は無限の海で
島のような気分になる。

 誰もオレンジを食わない
満月の下では。
果物ってやつは
緑の、冷たいのを食わなくちゃいけない。

 百のおなじ顔をした
月が上るとき、
銀貨は
ポケットの中で泣きじゃくる。

(Federico García Lorca, La luna asoma)

ソネット(ロルカ)

 知っているよ 私の横顔がしずかなものであることを
反映なき空の北で、
眠ることのない水銀、純潔の鏡
そこで私のスタイルの脈拍が壊れる。

 もしもツタと糸の冷たさが
私が残してきた体の基準であるなら、
砂に映る私の横顔は 鰐の
顔を赤らめることのない古き沈黙。

 そして私の凍えた鳩の舌は
炎を味わうことなんてけっしてなく、
味わうのはただエニシダの無人の味だけ、

 私は抑圧された規範の自由な徴と
なろう、硬直した枝の首で
あるいは痛むダリアの無限の中で。

(Federico García Lorca, Soneto)

Tuesday 27 May 2008

奇想曲(ロルカ)

 トリス!...
目を閉じた
かい?
 トリイス!...
もっとだって? きみは
微風みたいな娘だね。
おれは男だ。
 トラス!...
もう行くのかい、恋人よ、
それで、きみの目は?
 トラアス!...
きみが両目を閉ざすなら、ここに二本の羽がある。
聞いてるかい? おれの本物の
孔雀から見つめている二本の羽だ。
 トリス!...
聞こえたかい?
 トラアス!...

(Federico García Lorca, Capricho)

Monday 26 May 2008

ルビーの円盤(ロルカ)

狂ったみたいにくるくる
まわっては震える。
何も知らず
でもすべてを知っているのか?
たくさんの矢がすべて
この円い心臓を狙う!

すべての瞳が
この円い
心臓を見つめる。
この神秘と
私たちのあいだには
血まみれのレンズ!

(Federico García Lorca, Disco de rubiés)

Sunday 25 May 2008

ひまわり(ロルカ)

もし私がひとりのキュクロプスに恋したなら
あのまぶたのない
まなざしの下で
溜め息をつくでしょう。
ああ、火のひまわり!
群衆は彼を見る
動揺することもなく。
たくさんのアベルたちの
群れをまえにした
神の目!

ひまわりひまわり!
皮肉な目配せなんかとは無縁な
野生の純粋な目!

ひまわりひまわり。
お祭りに集まった群衆の上の
熱い聖痕!

(Federico García Lorca, Girasol)

中国庭園(ロルカ)

赤い染料とマグネシウムの
小さな林で
小さな火花のプリンセスたちが
飛び跳ねている。

桜の木のジグザグの上に
オレンジの雨が降り
コンマのあいだでは訓練された
青い小さな龍たちが飛んでいる。

私の少女よ、この小さな庭は
きみの爪を鏡として
はじめて見えるもの。
きみの歯の屏風に
映るもの。
小さなねずみみたいなやつなのさ。

(Federico García Lorca, Jardín chino)

Saturday 24 May 2008

ロケット花火(ロルカ)

六本の火の槍が
上がる。
(夜はひとつのギター。)
六匹の猛烈に怒った蛇たち。
(聖ホルヘが空をかけてくる。)
六度吹きつける黄金と風。
(夜のガラス瓶は
大きくふくらむ?)

(Federico García Lorca, Cohetes)

カタリーナ車輪(ねずみ花火)(ロルカ)

ドーニャ・カタリーナ
金色の髪が一本だけあった
暗い色の
髪の中に。

(私は誰を待っているの、
神さま、
誰を待っているの?)

ドーニャ・カタリーナ
ゆっくり歩く
緑色の小さな星を
夜に撒きながら。

(ここでもなく
あそこでもなく、
やっぱりここ。)

ドーニャ・カタリーナ
亡くなるときには
額に真紅の
光が生まれる。

チュルルッッッッッッッッ!

(Federico García Lorca, Rueda Catalina)

Friday 23 May 2008

マドリガル(牧歌)II(ロルカ)

きみのいくつもの
同心円に
私は捕えられている。
土星のように
私は
夢の指輪を
いくつもつけている。
そして沈みきることもなければ
高みに上ることもない。

(Federico García Lorca, Madrigales II)

マドリガル(牧歌)I(ロルカ)

水の上の
同心円状の波のように、
私の心に
きみの言葉がひろがる。

風にぶつかる
一羽の小鳥のように、
私の唇に
きみのくちづけが。

夕暮れをまえにして
開いた泉のように、
私の黒い瞳は
きみの肉に釘付け。

(Federico García Lorca, Madrigales I)

Thursday 22 May 2008

「三つの黄昏」より(ロルカ)

さらば、太陽!

きみが月だということはよく知っているさ、
でもおれは
そんなことは誰にもいわないよ、
太陽。
きみはカーテンの
うしろに隠れ
米の粉のおしろいで
顔を塗る。
昼には
農夫のギターが、
夜には
ピエロのマンドリンが。
それが何だっていうんだ!
きみの夢は
多彩な
庭を作ること。
さらば、太陽!
きみを愛する者を忘れないで
かたつむりと、
バルコニーの
小さな老婆、
そしておれだ...
独楽遊びをしているこのおれ...
おれ自身の心で。

(Federico García Lorca, de "Tres crepúsculos")

ソリタリオ(ひとり遊び)(ロルカ)

黄金の
ピアニッシモの上で...
おれの孤独な
ポプラ。

調和のとれた
一羽の小鳥もいない。

黄金の
ピアニッシモの上で...

川はその足元で
きまじめに深く流れる
黄金の
ピアニッシモの下で...

そしておれは夕べを
両肩にかついでいる
狼にやられて
死んだ子羊のように
黄金の
ピアニッシモの下で。

(Federico García Lorca, Solitario)

Monday 19 May 2008

突風(ロルカ)

私の娘が通った。
なんと美しく行くことか!
モスリンの小さな
服を着て。
蝶を一頭
まとわりつかせながら。

彼女を追うんだ、若者よ、
その上の小径を!
そしてあの子が泣いたり
考えこんだりしているのを見かけたら、
あの子の心を金銀の粉で塗って
いってやれ
泣いてばかりいると
ひとりぼっちになるよと。

(Federico García Lorca, Ráfaga)

別れ(ロルカ)

私は別れを告げよう
十字路で
私の魂の
道へと入ってゆくために。

回想と悪い時を
目覚めさせ
私の白い歌の
小さな菜園に到るだろう
そして震えはじめることだろう
朝の星のように。

(Federico García Lorca, Despedida)

Friday 16 May 2008

カーヴ(ロルカ)

おれは子供時代に戻りたい
そして子供時代から影に。

 行くのかい、夜鳴き鶯よ!
 行きなさい。

おれは影に戻りたい
そして影から花に。

 行くのかい、香りよ?
 行きなさい。

おれは花へと戻りたい
そして花から
おれの心に。

 行くのかい、愛?
 さらば!

(おれの無人の心に!)

(Federico García Lorca, Recodo)

にむかって(ロルカ)

  帰れよ、
  心!
  帰りなさい。

愛の密林に
きみは人影を見ない。
澄み切った泉が見つかるだろう。
緑の中に
永遠の
大きな薔薇が見つかるだろう。

そしてきみはいう。愛、愛!
でもきみの傷口は
ふさがらない。

  帰れよ、
  心、
  帰りなさい。

(Federico García Lorca, Hacia...)

流れる(ロルカ)

歩く者は
濁る。

流れる水は
星を見ない。

歩く者は
みずからを忘れる。

そして立ち止まる者は
夢を見る。

(Federico García Lorca, Corriente)

Tuesday 13 May 2008

帰還 (ロルカ)

 私は翼を求めて
 帰ってくる。

帰らせてくれよ!
おれは夜明けに死にたい!

おれは昨日
死にたい!

 私は翼を求めて
 帰ってくる。

戻らせてくれよ!

おれは泉において
死にたい。

おれは海の
外で死にたいんだ。

(Federico García Lorca, El regreso)

四つの黄色いバラード(4)(ロルカ)

ヒナギクでできた空
の上を私は行く。

この午後私は想像する
自分は聖人だと。
私の両手に
月がゆだねられたのだと。
私は月をもういちど
空間に戻してやった、
すると主は私に
薔薇と後光をごほうびにくれた。

ヒナギクでできた空
の上を私は行く。

そしていま私は
この野原を行く。
娘たちを
悪い伊達者どもから解放し
すべての少年に
金貨をやるために。

ヒナギクでできた空
の上を私は行く。

(Federico García Lorca, Cuatro baladas amarillas IV)

Saturday 10 May 2008

四つの黄色いバラード(3)(ロルカ)

 黄金の畑に
 赤い牡牛が二頭。

牡牛たちは古い
鐘のリズムと
小鳥の眼をもっている。
霧の朝むきだが、それでも
夏の空気のオレンジを
つらぬいてゆくのだ。
生まれたときから老いていて、
主人などいない。
そして脇腹に生えた
翼を思い出している。
牡牛たちは
いつもルートの畑を
ためいきをつきながら行く
浅瀬を探しながら、
あの永遠の浅瀬を、
星明かりに酔って
すすり泣きを食みつつ。

 黄金の畑に
 牡牛が二頭。

(Federico García Lorca, Cuatro baladas amarillas III)

Friday 9 May 2008

四つの黄色いバラード(2)(ロルカ)

大地は
黄色かった。

 つかまえてごらん(オリージョ、オリージョ)、
 羊飼い小僧(パストルシージョ)。

白い月も
星も光らなかった。

 つかまえてごらん(オリージョ、オリージョ)、
 羊飼い小僧(パストルシージョ)。

浅黒い葡萄つみ女が
つるを切って泣かせている。

 つかまえてごらん(オリージョ、オリージョ)、
 羊飼い小僧(パストルシージョ)。

(Federico García Lorca, Cuatro baladas amarillas II)

Thursday 8 May 2008

四つの黄色いバラード(1) (ロルカ)

あの山の上に
小さな一本の緑の木がある。

 行く羊飼いよ、
 やってくる羊飼いよ。

眠たそうなオリーヴの老木たちが
暑い平野を下ってゆく。

 行く羊飼いよ、
 やってくる羊飼いよ。

白い雌羊たちも犬ももたず、
杖もなく愛ももたず。

 行く羊飼いよ。

まるで黄金の影のように
きみは小麦畑に溶けてゆく。

 やってくる羊飼いよ。

(Federico García Lorca, Cuatro baladas amarillas I)

Wednesday 7 May 2008

半月(ロルカ)

月が水をゆく。
しずかな空はどんなようす?
ゆっくりと川の
老いた震えをたどってゆく
一方、若い蛙は
月を小さな鏡だと思いました。

   (マルガリータ、私はだれ?)

(Federico García Lorca, Media Luna)

Tuesday 6 May 2008

続けて(ロルカ)

ひとつひとつの歌は
愛の
淀み。

ひとつひとつの明星は
時の
淀み。
時の
結び目。

そしてひとつひとつの溜め息は
叫びの
淀み。

(Federico García Lorca, Sigue)

Monday 5 May 2008

ひどいさびしさ(ロルカ)

海に
自分を映してみることはできない。
きみの視線は
光の茎のように折れてしまう。
地球の夜。

(Federico García Lorca, La gran tristeza)

Sunday 4 May 2008

ロルカ3編

  彗星

シリウスには
子供たちがいます。

(Cometa)


  金星

開け、ごま
昼の。
閉じよ、ごま
夜の。

(Venus)


  下のほうでは

星がちりばめられた空間が
音に映っている。
幽霊じみた蔓。
迷宮のような竪琴。

(Abajo)

Saturday 3 May 2008

救貧院(ロルカ)

そして貧しい星たち、
光ももたない星たちは、

なんという痛み、
なんという痛み、
苦しみ!

見捨てられているよ
どんよりした青の下に。

なんという痛み、
なんという痛み、
苦しみ!

(Federico García Lorca, Hospicio)

Friday 2 May 2008

思い出(ロルカ)

ドーニャ・ルーナ(月奥さん)はまだ出ていない。
ルーレット遊びをしているんだ
みずから道化役を買って出て。
月に感化された(頭のおかしい)お月さま。

(Federico García Lorca, Recuerdo)

Thursday 1 May 2008

母(ロルカ)

大熊が
あおむけにねころんで
星たちにお乳をあげています。
がるがる
がるがる。
子供の星たち、逃げなさい
幼い星の子たち!

(Federico García Lorca, Madre)