Wednesday 30 April 2008

ひとつ(ロルカ)

あのロマンティックな星
(マグノリアの花を思って、
薔薇の花を思って。)
あのロマンティックな星は
発狂しました。

ばらりん、
ばららん。

(歌いなさい、小さな蛙、
草陰の
きみの小屋で。)

(Federico García Lorca, Una)

Tuesday 29 April 2008

天の川(ロルカ)

サンティアゴへの街道。
(ああ、私の愛の夜、
私は雌の小鳥で、塗られていた
塗られていた
塗られていた
レモンの花に。)

(Federico García Lorca, Franja)

Monday 28 April 2008

明星(ロルカ)

しずかな明星がひとつ、
まぶたのない明星だ。
「どこに?」
「明星だよ...」
溜め池の
眠る水の中に。

(Federico García Lorca, Un lucero)

Sunday 27 April 2008

すべて(ロルカ)

微風の手が
空間の顔を撫でる
いちど
そしてもういちど。

星々が青い
まぶたを半ば閉ざす
いちど
そしてもういちど。

(Federico García Lorca, Total)

Saturday 26 April 2008

空の片隅(ロルカ)

老いた
星が
濁った目を閉ざす。

新しい
星は
影を
青く染めたがっている。

(山の松林には
蛍たち。)

(Federico García Lorca, Rincón del cielo)

Friday 25 April 2008

プレリュード(ロルカ)

去勢牛が
両目を閉じる
ゆっくりと...
(家畜小屋の暑さ。)

これが夜への
プレリュード。

(Federico García Lorca, Preludio)

Thursday 24 April 2008

スケッチ(ロルカ)

あの道、
人はいない。
あの道。

あのコオロギ、
家がない。
あのコオロギ。

そしてこの羊を呼ぶ鈴、
眠りにつく。
この鈴。

(Federico García Lorca, Rasgos)

Wednesday 23 April 2008

淀み(ロルカ)

フクロウが
瞑想をやめて、
眼鏡を拭き
ためいきをつく。
一匹の蛍が
山を転げ落ち
ひとつの星が
少しだけ動く。
フクロウは翼をばたばたし
また瞑想をつづける。

(Federico García Lorca, Remanso)

Tuesday 22 April 2008

混乱(ロルカ)

私の心は
きみの心なのか?
私の考えを映しているのは誰?
この根を欠いた
情熱を私に貸し与えるのは誰?
なぜ私の衣服は
色を変えるのか?
すべては十字路にある!
なぜその泥の中に
あれほどの星を見るのか?
兄弟よ、きみはきみなのか
私が私なのか?
そしてこのひどく冷たい両手は
彼のものなのか?
私には日没にたたずむ自分が見える、
そして蟻の巣のようにうじゃうじゃいる人々が
私の心を歩んでゆく。

(Federico García Lorca, Confusión)

大気(ロルカ)

大気は
いくつもの虹をはらみつつ
その鏡を割る
木立の上で。

(Federico García Lorca, Aire)

Monday 21 April 2008

眠る鏡のための子守唄(ロルカ)

 ねむれ。
さまようまなざしを
恐がらずに
 ねむりなさい。

蝶も
言葉も
鍵穴からこっそり
さしこむ光も
きみを傷つけることはない。
おねむり。

私の心臓とおなじく
きみのことも。
私の鏡よ。
愛が私を待つ庭よ。

何も気にせずにおねむり、
でもちゃんと起きるんだよ
私の唇の最後の口づけが
死んでゆくそのときには。

(Federico García Lorca, Berceuse al espejo dormido)

Sunday 20 April 2008

開闢(イニティウム) (ロルカ)

アダムとイヴ。
蛇が
鏡を
千のかけらに割った、
林檎が
そのための小石だった。

(Federico García Lorca, Initium)

Saturday 19 April 2008

両目(ロルカ)

両目に開くのは
無限の道。
両目は影の
二つの十字路。
死はいつもこんな
隠れた野原からやってくる。
(涙の花々を
手折る女庭師。)
瞳は地平線を
もたない。
私たちは原生林でのように
瞳の中で道に迷う。
行けば戻ることのできない
城にむかって
虹彩の中ではじまる
道をゆくのだ。
愛なき少年よ、
神がおまえを赤いツタから解放してくれますように!
そしてきみ、ネクタイに
刺繍をするエレニータ、
きみはあの旅人に気をつけるんだよ!

(Federico García Lorca, Los ojos)

Friday 18 April 2008

シント(神道)(ロルカ)

黄金の小さな鐘たち。
龍のパゴダ。
チリンチリン
稲田の上で。

素朴な泉。
真実の泉。

遠くでは、
薔薇色の鷺
そして萎れてしまった火山。

(Federico García Lorca, Sinto)

奇想曲(ロルカ)

それぞれの鏡の裏には
死んだ一個の星と
眠っている子供の虹がいる。

それぞれの鏡の裏には
永遠の静寂と
まだ飛んだことのない
沈黙たちの巣がある。

鏡は泉のミイラ、
夜になれば
光の貝のように
閉じてしまう。

鏡は
露の母、
たそがれを解剖する書物、
肉となった山びこ。

(Federico García Lorca, Capricho)

Wednesday 16 April 2008

ロマンスの言い換え(ウォレス・スティーヴンズ)

夜は夜の歌について何も知らない。
それはただそれ自身、私が私であるように。
そしてこれを知覚することにおいて私は私自身をもっともよく知覚する。

そしてきみを。ただ私たち二人だけが交換できる
互いに相手の中にある互いに与えられるものを。
ただ私たち二人だけがひとつなのだ、きみと夜ではなく、

夜と私でもなく、きみと私、孤独に
あまりにも孤独に、あまりにも深く二人きりで、
それはちょっとした孤独などはるかに越えているので、

夜はもはや私たちの背景でしかなく、
私たちは互いに独立した自己のそれぞれにひどく忠実だ、
互いに相手に投げつける青白い光の中で。

(Wallace Stevens, Re-statement of Romance)

Tuesday 15 April 2008

ドビュッシー(ロルカ)

 私の影がしずかにゆく
用水路の水の上を。

 私の影のせいで蛙たちは
星々を奪われている。

 影は私の体にむかって
しずかな事物の反映を送る。

 私の影は巨大な
紫色の蚊のように飛ぶ。

 百匹のコオロギが葦原の
光を黄金に塗りたがっている。

 ひとつの光が私の胸で生まれる。
あの用水路で反映して。

(Federico García Lorca, Debussy)

Monday 14 April 2008

町の嵐(思い出1893年) (トマス・ハーディ)

彼女は新しいテラ・コッタ色のドレスを着ていた、
私たちはそのまま、打ちつける嵐のせいで
ハンサム(二人乗り馬車)の乾いた席で待っていた、
馬が動こうとしなかったので。そう、不動のまま
 私たちはすわっていた、気持ちよく、暖かく。

やがてどしゃ降りがやみ、私は鋭いさびしさの痛みを感じた
するとさっきまで私たちのかたちを映していたガラスが
はねあげられ、彼女は飛び出し扉に急いだ。
私は彼女に口づけしていたにちがいないのだ、もしも
 雨があと一分間だけつづいていたならば。

(Thomas Hardy, A Thunderstorm in Town: (A Reminiscence 1893))

Sunday 13 April 2008

散歩(トマス・ハーディ)

きみはこのごろは一緒に歩いてくれなかったね
あの門の先の道を
 丘の上の木まで。
 むかしみたいには。
 きみは弱り足もきかないので、
 とても一緒には来られなかった、
それでおれはひとりで歩いたが、気にもしなかったのさ、
きみを置いてきたつもりなんてまるでなかったので。

きょうもおれはあそこまで歩いてみた
いつもやっていた通りさ。
 あたりを見渡した
 よく知っている土地を
 またきょうもひとりで。
 だったら違いは何だ?
ただあの隠された感覚だけ、あそこから
戻ったとき、はたして部屋はどんな風に見えることか。

Saturday 12 April 2008

大地(ロルカ)

私たちはゆく
水銀を塗っていない
鏡の下を、
雲のない
水晶の下を。
もし百合たちが
裏返しに花咲くなら、
もし薔薇たちが
裏返しに花咲くなら、
もしすべての根が
星々を見つめ
死者がその目を
閉じないなら、
私たちは白鳥に似るだろう。

(Federico García Lorca, Tierra)

Friday 11 April 2008

レプリカ(ロルカ)

とてもさびしい一羽の鳥が
歌う。
空気が増殖する。
私たちは鏡ごしに聴く。

(Federico García Lorca, Réplica)

光線(ロルカ)

すべては扇。
兄弟よ、両腕をひろげて。
神とは扇の要。

(Federico García Lorca, Rayos)

Thursday 10 April 2008

反映(ロルカ)

お月さま、奥さま。
(水銀が割れてしまったの?)
いいえ。
どこかの男の子が
提灯を燃やしてしまったの?
たった一頭の蝶だって
あなたを消すには十分。
お黙り... だって本当なんです!
あそこにいる蛍は
月なんですよ。

(Federico García Lorca, Reflejo)

Wednesday 9 April 2008

小さな古いテーブル(トマス・ハーディ)

きしめ、小さな木のテーブルよ、きしめ、
私がきみに肘や膝でふれるとき。
きみはそんな風にして私に語る
きみを私にくれたあの人について!

きみを、小さなテーブルよ、連れてきたのは彼女ーー
彼女自身の手で運んできたのだ、
私のことをある考えをもって見るのだが
その考えは私には理解できなかった。

ーー誰であれやがてそれを所有し、
その音を聞く人は、けっして知ることはないだろう
このはるかむかしのきしみに
どんな歴史が秘められているかを。

(Thomas Hardy, The Little Old Table)

Tuesday 8 April 2008

大きな鏡 (ロルカ)

私たちは
大きな鏡の下で生きている。
人間は青い!
ホサンナ!*


*神を讃えることば

(Federico García Lorca, El gran espejo)

象徴 (ロルカ)

キリストは
両手にひとつずつ
鏡をもっていた。
自分自身の幽霊を
増殖させた。
彼の心臓を
黒いまなざしのうちに
投影した。
信じます!

(Federico García Lorca, Símbolo)

Monday 7 April 2008

ピータ(竜舌蘭) (フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

化石となった蛸。

きみは灰色の腹帯を
山々の腹に巻き
恐るべき臼歯を
山間の細道に置く。

化石となった蛸。

(Federico García Lorca, Pita)

Sunday 6 April 2008

雲 (エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

 私は自分が気に入るにちがいない仕事を学ばなくてはならない、そんなものはいくつもないのだが。たぶん大工か、石工。この砂地の土地に湿った、なめらかな、苔がたくさん生えた、冷たい石で、一軒の家を建てよう。美しい石だ、割れ目が交叉し、互いにそっぽをむきあっている。私は山羊たちが歩く小径をたどってゆかなくてはならない、夕方の終わりごろ、大道芸人たちが栄光に包まれてやってくるのを見るために。かれらがしめしてくれるのは、ゆっくりと流れる、とても白い、遠ざかりゆく雲。

(Engénio de Andrade, As nubens)

Saturday 5 April 2008

チュンベーラ(ウチワサボテン) (フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

野生のラオコーン。

きみはなんて立派なんだ
半月の下で!

複数化したペロータ選手たち。

きみはなんて立派なんだ
風をおびやかしつつ!

ダフネとアティスは
きみの痛みを知っている
説明できないそれを。

(Federico García Lorca, Chumbera)

Friday 4 April 2008

クロタロ(カスタネット) (フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

クロタロ。
クロタロ。
クロタロ。
よく響く黄金虫。

手という
蜘蛛の中で
おまえはぬるい
空気に波立たせる
そしておまえの木のさえずりの中で
溺れる。

クロタロ。
クロタロ。
クロタロ。
よく響く黄金虫。

(Federico García Lorca, Crótaro)

Thursday 3 April 2008

女の肖像(エウジェニオ・デ・アンドラーデ)

 彼女の顔に表れていたのは時だけではなく、山羊たちもまた深く足跡を残していた。むずかしかった、不可能だった、彼女を土地そのものから区別するのは。老いて、乾き、風が通過するとぼろぼろと崩れる。ポルトガル女、きわめて貧しく。

(Engénio de Andrade, Retrato de mulher)

Wednesday 2 April 2008

恋歌(W・B・イェイツ)

  恋歌
  (ゲール語から)

恋人よ、行こう、行こう、おれときみとで、
そして遠い森でおれたちは露を散らそう、
すると鮭は見ているだろう、川ガラスもおなじだ、
恋人よ、おれたちは聞くだろう、おれときみとで
雌鹿と雄鹿が呼びかわす遠い声を。
すると枝にいる小鳥は澄んだ声でおれたちのために歌う、
姿を見せない郭公もお祭り気分で鳴く。
そして死は、ああきれいな人よ、そばに近づくことさえしない、
あの遠く香しい森に抱かれているかぎり。

(W.B. Yeats, Love Song: From the Gaelic)

Tuesday 1 April 2008

上着(W・B・イェイツ)

私は私の歌を上着とした
古い神話でできた
刺繍におおわれているのだ
かかとからのどまで。
だが道化どもがそれをつかまえ、
世間の目が見ている中で着た
かれら自身が作ったもののように。
歌よ、やつらに好きに使わせてやれ、
なぜなら企てはより大きいのだから
裸で歩くことのほうが。

(W.B. Yeats, A Coat)