Monday 31 March 2008

カンテラ(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

おお、何というまじめさで
カンテラの炎は瞑想することか!

まるでインドのファキール(行者)が
彼の黄金のはらわたを見つめ
風の止んだ大気を夢見つつ
姿を消してゆくように。

白熱したコウノトリが
その巣から
ずんと重い影をつついて
震えながら姿を見せるのだ
死んだジプシーの少年の
円い両目に。

(Federico García Lorca, Candil)

Sunday 30 March 2008

ギターのなぞなぞ(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

十字路の
円くなった広場で
六人の娘たちが
踊る。
三人は肉でできて
三人は銀でできて。
昨日の夢が彼女たちを探す、
でも黄金のポリフェモが
彼女らをじっと抱きしめている。
ギターです!

(Federico García Lorca, Adivinanza de la guitarra)

Saturday 29 March 2008

コルドバのバリオ(貧民街) (フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

 コルドバのバリオ
  夜の主題

家の中でみんなが
星から身を守っている。
夜が崩れる。
中には死んだ少女がいて
真紅の薔薇を
髪に隠している。
六羽のヨナキウグイスが鉄格子で
彼女のために泣いている。

人々は傷口の開いたギターを抱え
溜め息をつくばかり。

(Federico García Lorca, Barrio de Córdoba)

Friday 28 March 2008

亡霊たち(W・B・イェイツ)

この夜はあまりに奇妙でまるで
私の頭髪が逆立っているように見えたほどだ。
日没にはじまり私は夢を見た、
笑っている、あるいは臆病、あるいは荒ぶる女たちが、
レースや絹の衣服にさらさらと音を立てさせて、
軋む私の階段を上がってくるのを。彼女らは読んでいた、
あのすさまじきものについて私が詩作していたすべてを、
すなわちお返しはあったものの報われない愛を。
彼女らは戸口に立ち私の大きな
木製の聖書台と火のあいだに立っていた
やがて私に彼女らの鼓動が聞こえるまで。
ひとりは遊び女、ひとりは男を
欲望の目で見たことのない子供で、
ひとりは、ひょっとしたら、女王かもしれなかった。

(W. B. Yeats, Presences)

Thursday 27 March 2008

マラゲーニャ(マラガ風の歌舞)(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

死が
タベルナ(居酒屋)に
入ったり出たりしている。

黒い馬たちと
不吉な人々が
ギターの
深い道を通過してゆく。

塩の匂いがする
雌の血の匂いがする
海沿いの
発熱したナルドの草からは。

死が
タベルナに
入ったり出たり
出たり入ったりしている。

(Federico García Lorca, Malagueña)

Wednesday 26 March 2008

メメント(覚えとして)(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

おれが死んだら、
おれのギターと一緒に埋めてくれ
砂の下に。

オレンジの木々と
ハッカに囲まれて
おれが死んだら。

おれが死んだら、
そうしたければ埋めてくれるといい、
風見鶏に。

おれが死んだら、そのときには!

(Federico García Lorca, Memento)

Tuesday 25 March 2008

月が顔をのぞかせる(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

月が出るとき
鐘はすべて失われ
歩み入ることのできない
小径が現れる。

月が出るとき、
海が大地をおおい
心はみずからを
無限の中の島だと感じる。

満月の下でオレンジを
食うやつなんていない。
緑色の冷たい果実を
食べるのがふさわしい。

百のおなじ顔をもって
月が出るとき、
財布の中では銀貨が
ぐすぐす泣いている。

(Federico García Lorca, La luna asoma)

Monday 24 March 2008

呪文(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

メドゥーサのように
こわばった手が
ろうそくの病んだ
目を潰す。

スペードのエース。
十字架になった鋏。

お香の
白い煙の上に、何か
モグラと
曖昧な蝶のようなもの。

スペードのエース。
十字架になった鋏。

それが目に見えない
心臓をしめつける、見えるかい?
風に映っている
心臓が。

スペードのエース。
十字架になった鋏。

(Federico García Lorca, Conjuro)

Sunday 23 March 2008

カフェ・カンタンテ(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

ガラスのランプ
と緑の鏡が並ぶ。

暗い舞台の上で、
ラ・パララ*が対話を
つづけている
死と。
彼女(死)にむかって声をかけるが、
来ないので、
また呼びかけてみる。
お客たちは
しゃくり泣きのようにのどを詰まらせる。
すると緑の鏡たちの中では
長い絹のすそが
揺れるのだ。

* 19世紀アンダルシアの歌手Dolores Parrales の通名。

(Federico García Lorca, Café cantante)

Thursday 13 March 2008

六つの意味深い風景 VI (ウォレス・スティーヴンズ)

VI
合理主義者たちは四角い帽子をかぶって、
四角い部屋で考えている、
床を見つめながら、
天井を見つめながら。
かれらは自分自身を
直角三角形に閉じこめる。
かれらがもし長斜方形とか、
円錐とか、波線とか、楕円を試すならーー
たとえば半月の楕円なんかだがーー
合理主義者たちはソンブレロをかぶることだろう。

(Wallace Stevens, Six Significant Landscapes VI)

六つの意味深い風景 V (ウォレス・スティーヴンズ)

V
街灯のナイフのすべてではなく、
長い街路の鑿でもなく、
ドームの木槌でも
高い塔でもない、
ぶどうの葉越しに輝く
ひとつの星に
彫ることのできるものを彫ることができるのは。

(Wallace Stevens, Six Significant Landscapes V)

六つの意味深い風景 IV (ウォレス・スティーヴンズ)

IV
私の夢が月に近づいたとき、
そのガウンの白い襞は
黄色い光にみたされた。
その両足の底は
赤くなった。
その髪は
ある種の赤い結晶によってみたされた
あんまり遠くない
星からの。

(Wallace Stevens, Six Significant Landscapes IV)

六つの意味深い風景 III (ウォレス・スティーヴンズ)

III
私は一本の高い木を
尺度として自分を計る。
自分の背がずっと高いことがわかる、
なぜなら私は
自分の目で太陽に届くことができるので。
そして私は海岸にも
私の耳によって届く。
それでもね、私は嫌いだ
蟻たちが這って私の影から
出たり入ったりするようすが。

(Wallace Stevens, Six Significant Landscapes III)

六つの意味深い風景 II (ウォレス・スティーヴンズ)

II
夜はある女の
腕の色をしている。
夜、その女性、
暗く、
かぐわしくしなやかで、
彼女自身を隠している。
ひとつの水たまりが、
踊りにより揺れた
腕輪のように輝く。

(Wallace Stevens, Six Significant Landscapes II)

六つの意味深い風景 I (ウォレス・スティーヴンズ)

I
ひとりの老人がすわっている
一本の松の木陰に
中国で。
彼が見るのは飛燕草、
青と白の、
木陰のへりのところで、
風にゆれている。
彼の髭も風にゆれる。
松の木も風にゆれる。
そのようにして水が草の上を流れる。

(Wallace Stevens, Six Significant Landscapes I)

フアン・ブレーバ(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

フアン・ブレーバはもっていた
巨人の体と
少女の声を。
あんなトリルは他にどこにもなかった。
微笑の背後で
歌っているのは
痛みそのものだった。
呼び出すのは
眠るマラガのレモン林、
彼のすすり泣きには
海の塩の後味があった。
ホメロスのように、彼は
盲目のまま歌った。彼の声には
光なき海と干涸びた
オレンジを思わせるものがあった。

(Federico García Lorca, Juan Breva)

六弦(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

ギターが
夢に涙を流させる。
破滅した
魂のしゃくり上げが
その円い口から
逃げ出す。
そしてタランチュラのように、
大きなひとつの星を織り上げるのだ、
黒い木でできた雨水溜め
の上に浮かぶ
溜め息を捕まえるために。

(Federico García Lorca, Las seis cuerdas)

鐘(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

  鐘(ボルドン*)


黄色い
塔の中で
鐘が鳴っている。

黄色い
風の上に
鐘の音が花開く。

黄色い
塔の中で
鐘が鳴りやむ。

風は砂埃で
銀の畝を作る。

*リフレインのこと

(Federico García Lorca, Campana (Bordón))

夜明け(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

だが愛とおなじく
弓を射る者たちは
盲目なのだ。

緑色の夜の上に、
矢は
熱い百合の
痕跡を残してゆく。

月の竜骨が
紫色の雲を破り
矢筒に
露がみちる。

ああ、だが愛とおなじく
弓を射る者たちは
盲目なのだ!

(Federico García Lorca, Madrugada)

Wednesday 12 March 2008

サエタ(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

黒いキリストが
通り過ぎる
ユダヤの百合から
スペインのカーネーションへ。

見ろよ、彼がどこからやってくるのか!

スペインからさ。
透き通った暗い雲
焼けた大地、
とてもゆっくりと水が流れる
川床。
黒いキリストは
焼けたたてがみをもち
尖った頬をして
その瞳は白い。

見ろよ、彼がどこに行くのか!

(Federico García Lorca, Saeta)

*サエタは無伴奏のフラメンコの歌で、多くはキリストの受難を讃えて歌われる。

Tuesday 11 March 2008

行列(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

横町をやってくるのは
奇妙な一角獣たち。
どんな野原から、
どんな神話の森から?
近寄ると、
天文学者に似ている。
おとぎ話のようなメルリンと
「この人を見よ」だ、
魔法のドゥランダルテと
「怒れるオルランド」だ。

(Federico García Lorca, Procesión)

Monday 10 March 2008

ローマ街道(トマス・ハーディ)

ローマ街道はまっすぐ剥き出しで続く
髪の毛の青白い分かれ目のように
ヒースの荒野を。そして思慮深い人々は
現在と過去の日々を対照させ、
調査し、計り、比較する。

がらんとした空中に現われるのは
兜をかぶった兵士たち、誇らしく
鷲の軍旗についてゆく、ふたたび歩みつつ
     このローマ街道を。

けれども背が高い 真鍮の兜の兵士が
私のために出現することはない。私の視界に
立ち上がるのは母の姿、
幼児である私の歩みをみちびいてくれるのだ
かつて二人で歩いたときのように、古代の道
     このローマ街道を

(Thomas Hardy, The Roman Road)

Sunday 9 March 2008

おぼろな自分の姿(トマス・ハーディ)

ここにあるのは古い床
踏まれ摩滅し くぼみ薄くなって、
ここにあるのは以前のドア
死者の足がかつて歩み入った扉。

彼女はここでいつもの椅子にすわっていた、
火にむかってほほえみながら。
演奏する彼はそこに立っていた、
高く いっそう高く 弓をかかげながら。

子供のように、私は夢の中で踊った。
数々の祝福がその日を鮮明に彩った。
すべてがきらめき輝いた。
でも私たちは互いから目をそらしていた!

(Thomas Hardy, The Self-Unseeing)

Saturday 8 March 2008

洞窟(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

洞窟から聞こえる
長いすすり泣き。

(赤の上に
紫。)

ジプシーが呼び出す
遠い国々を。

(高い塔と謎めいた
男たち。)

とぎれとぎれの声に
彼の両目はついてゆく。

(赤の上に
黒。)

そして漆喰を塗られた洞窟が
黄金のうちに震える。

(赤の上に
白。)

(Federico García Lorca, Cueva)

Friday 7 March 2008

短剣(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

短剣が
心臓に入ってゆく、
犂の刃が
荒れ地に入るように。

  いやだ。
 そいつをおれに突き立てるのは
  やめてくれ。

短剣が
太陽の光のように
おそろしい窪地に
火災を起こす。

  いやだ。
 そいつをおれに突き立てるのは
  やめてくれ。

(Federico García Lorca, Puñal)

Thursday 6 March 2008

(乾いた大地、)(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

乾いた大地、
広大な
夜をもつ
しずかな大地。

(オリーヴ畑に風、
山に風。)

古い
石油ランプと
悲しみの大地。
深い溜め池のある
大地。
両目のない死と
矢の大地。

(どの道にも風。
ポプラ並木にはそよ風。)

(Federico García Lorca, "Tierra seca,")

Wednesday 5 March 2008

それから(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

時が作る
迷路たちが
姿を消す。

(残るのはただ
砂漠だけ。)

心臓、つまり
欲望の泉も
姿を消す。

(残るのはただ
砂漠だけ。)

夜明けと口づけの
幻想も
姿を消す。

残るのはただ
砂漠だけ。
波打つ
砂漠だけ。

(Federico García Lorca, Y después)

Tuesday 4 March 2008

通り過ぎた後で(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

子供たちは見つめる
遠い一点を。

ランプはどれも消えた。
盲目の少女たちが
月にたずね、
空気には立ち上る
すすり泣きの渦巻きが。

山々が見つめる
遠い一点を。

(Federico García Lorca, Después de pasar)

Monday 3 March 2008

シギリージャの通過(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

黒い蝶たちに混じって、
浅黒い娘が行く
雲の
白い蛇といっしょに。

光の大地、
大地の空。

けっしてやってこないリズムの
震えに鎖でつながれ。
彼女が銀の心臓と
右手には短剣をもっている。

どこに行くんだい、シギリージャ、
頭を欠いたリズムで?
どんな月が集めるんだろう
石灰と夾竹桃のおまえの痛みを?

光の大地、
大地の空。

(Federico García Lorca, El paso de la Siguiriya)

Sunday 2 March 2008

天気(トマス・ハーディ)

   I

これはカッコウが好む天気で
 私も好きだ。
驟雨が栗のイガを落とし
 鳥のひなを飛ばす。
小さな茶色いナイチンゲールがおめかしして
「旅人亭」の外ですわり
女中たちは小枝模様のモスリンを着てやってきて
市民たちは南と西の夢を見る。
 私もそうする。

   II

これは羊飼いがいやがる天気で
 私もいやだ。
ブナからは茶色と灰褐色のしずくが落ち
 激しく打ち、枝がゆれる。
丘に隠れた潮はずきずきと痛み
牧場には小川があふれ
門の柵にはしずくが垂れ下がり
ミヤマガラスの家族が家路につく。
 私もそうする。

(Thomas Hardy, Weathers)

Saturday 1 March 2008

叫び(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

ひとつの叫びの楕円が
山から山へと
飛ぶ。

オリーヴの木々から、
青い夜に
黒い虹がかかる。

 あい!

ヴィオラの弓のように、
叫びが風の
長い弦をふるわせた。

 あい!

(洞穴に住む人々は
石油ランプをかざして見る)

 あい!

(Federico García Lorca, El grito)