Monday 31 December 2007

王女マリーナ(ウォレス・スティーヴンズ)

彼女のテラスは砂
そして椰子の木と黄昏だった。

彼女はみずからの手首の動きを
彼女の思考の
仰々しい身振りとした。

この宵の人の
羽の乱れは
海をゆく
帆船の手管となった。

そしてこうして彼女はさまよった
彼女の扇のさまよいにより、
海の、宵の、
情感をたたえながら、
羽が流れるように動きまわり、
消え入るような音を立てるにつれて。

(Wallace Stevens, Infanta Marina)

巨人を攻める相談(ウォレス・スティーヴンズ)

  第一の少女

この田舎者が愚にもつかないことをいいながら、
山刀を研ぎながらやってきたなら、
私は彼の前に走り出てやるわ、
ジェラニウムと香りのしない花々の
丁重この上ない匂いをふりまきながら。
すると手も足も出ないでしょう。

  第二の少女

私は彼の前に走り出てやるわ、
魚の卵のように小さいいろいろな
色をちりばめた衣装を虹みたいにひろげて。
その糸が
彼をとまどわせるでしょう。

  第三の少女

あらあら、その... あのかわいそうな人!
私は彼の前に走り出てやるわ、
妙な具合にふうふうと音を立てて。
すると彼は耳をそばだてるでしょう。
私は喉音の世界に天国の唇音を
ささやいてあげる。
彼はいちころでしょう。

(Wallace Stevens, The Plot Against the Giant)

見すぼらしいヌードが春の航海を始める(ウォレス・スティーヴンズ)

けれども貝殻の上ではなく、彼女は旅立つ、
古代的に、海にむかって。
けれども最初に見つけた海藻の上で
彼女はきらめく海面を走る、
音もなく、ただもう一つの波のように。

彼女もまた不満であり
両腕には紫色の何かをもっているかもしれない、
塩っぽい港に飽いて、
海の遠い内奥の
海水と吠え声を無性に求めている。

風が彼女を加速させる、
彼女の両手と
水のしたたる背中に吹きつけて。
彼女は雲にふれる、それこそ
海をわたる彼女の円環のめざす場所。

とはいえこんなものは痩せた芝居にすぎない
あわてふためく水の輝きの中で、
彼女のかかとが泡立つーー
後の時代のより黄金色のヌードが
そんな風に

海の緑の華やぎの中心で
より強烈な静寂の中を進むのとはちがう、
運命の使用人が、
かぐわしい海流をわたって、休むことなく、
回復不能な彼女の道を行くだけ。

(Wallace Stevens, The Paltry Nude Starts on a Spring Voyage)

両キャロライナで(ウォレス・スティーヴンズ)

ライラックが両キャロライナでしおれる。
すでに蝶たちが小屋の上をひらひら飛んでいる。
すでに生まれたばかりの子供たちが愛を解釈している
その母親たちの声で。

時なき母よ、
あなたのアスピックの乳首が
いまだけこうして蜜を垂らすとはどういうことですか?

「松の木が私の体を甘くする
白いアイリスが私を美しくする」

(Wallace Stevens, In the Carolinas)

白鳥に対する罵倒(ウォレス・スティーヴンズ)

魂は、雁たちよ、森を越えて飛ぶ
風の不和のはるかに向こうまで。

太陽から青銅の雨が降ってきて
夏の死を刻む、それを時間は

黄金の逃げ口上とパフォスの戯画にみちた
心のない遺言を走り書きする者のごとく耐え忍ぶ

きみの白い羽を月へと遺贈し
きみのおだやかな動作を空気に与えながら。

見よ、すでに長い行列をはじめた
からすたちは彫像に糞の聖油を注ぐ。

そして魂は、雁たちよ、さびしくて
きみたちの肌寒い馬車の彼方の空へと飛んでゆくのだ。

(Wallace Stevens, Invective Against Swans)

刺青(ウォレス・スティーヴンズ)

光は一匹の蜘蛛のようだ。
水の上をはってゆく。
雪の縁をはってゆく。
きみの瞼の下をはい
そこに巣をかけるーー
その二つの巣を。

きみの目の蜘蛛の巣は
きみの肉や骨に
ひっついている
垂木や草につくように。

きみの目の繊維が
水の表面にあり
雪の縁にある。

(Wallace Stevens, Tattoo)

蛙は蝶を食う。蛇は蛙を食う。豚は蛇を食う。人は豚を食う。(ウォレス・スティーヴンズ)

河川が豚のように鼻で漁りながら進むというのは本当だ、
土手を漁り、そのうち眠たい餌桶の
まずそうな腹の音みたいに思えてくる、

空気にはこの豚たちの息がたちこめる、
でっぷりふくれた夏の息だ、そして
雷のがらがらという音もたちこめること、

この小屋を建て、この
畑を植え、しばらくのあいだ世話していた
男は心像の気まぐれなど知らなかったこと、

こんな風に土手を鼻で漁るものだからグロテスクになった
彼の怠惰で踏もうな日々の時刻、
こんな眠気とがらがら、

それらがすべて彼の不毛な存在の乳に吸いつくように見えてくる、
豚のごとき河川が海の口をめざして
海へと向かいつつ乳に吸いつくように。

(Wallace Stevens, Frogs Eat Butterflies. Snakes Eat Frogs. Hogs Eat Snakes. Men Eat Hogs.)

土臭い逸話(ウォレス・スティーヴンズ)

牡鹿たちが足音を立てて
オクラホマをかけぬけるたび
一匹の火猫が毛を逆立たせて立ちはだかった。

どこに行っても、
群れは足音を立て、それは
すみやかな、環状の線を描いて
かれらが右に逸れるまで変わらなかった
火猫のせいで。

あるいはすみやかな、環状の線を描いて
かれらが左に逸れるまで変わらなかった
火猫のせいで。

牡鹿たちは足音を立てた。
火猫は跳んだ、
右へ、左へ、
そして
毛を逆立たせて立ちはだかった。

それがすむと、火猫は明るい眼を閉じ
眠った。

(Wallace Stevens, Earthy Anecdote)

歌(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

月桂樹の枝の中に
二羽の暗い鳩を見た。
一羽は太陽で、
もう一羽は月だった。
ご近所のお嬢さんたち、と私はいった、
私の墓はどこですか?
私の尾羽に、と太陽はいった。
私の喉に、と月はいった。
そして大地を胴に巻き
歩いていた私は
裸の一人の少女と
二羽の大理石の鷲を見た。
一羽はもう一羽であり
少女は誰でもなかった。
かわいい鷲たちよ、と私はいった、
私の墓はどこなんだ?
私の尾羽に、と太陽はいった。
私の喉に、と月はいった。
桜桃の枝の中に
私は二羽の裸の鳩を見た。
一羽はもう一羽であり
二羽とも誰でもなかった。

(Federico García Lorca, Canción)

アダム(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

血の樹木が朝をぬらす
生まれたばかりの女が産声をあげるそばで。
その声は傷にガラスを残し
窓には骨の輪郭を残す。

その間、訪れる光は神話の白い
目的を定め達成する、林檎の
漠然とした涼しさへと逃れてゆく
血管の騒乱が忘れている目的だ。

アダムは粘土の熱の中で夢を見ている
疾駆し二倍の鼓動をもって
その頬へと近づいている。

けれどももう一人の昏いアダムは夢見ている
種のないわれらが石の月を
光の子はそこにおもむき身を焼かれ続けるだろう。

(Federico García Lorca, Adan)

変奏曲(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

空気の溜まり
山びこの枝の下に。

水の溜まり
星々の葉叢の下に。

きみの口の溜まり
口づけの茂みの下に。

(Federico García Lorca, Variación)

小さな水溜まり(フェデリコ・ガルシア・ロルカ)

きみの目に映る私を見た
きみの魂を思いながら。
 
     白い夾竹桃。

きみの目に映る私を見た
きみの口を思いながら。

     紅い夾竹桃。

きみの目に映る私を見た。
だがきみはもう死んでいた!

     黒い夾竹桃。

(Federico García Lorca, Remansillo)